裁決年(令和4・5年)|厚生労働省裁決年(令和4・5年)について紹介しています。www.mhlw.go.jp
厚労省のサイトに掲載されている、再審査請求裁決例をみての感想などを書いていきます。
慢性腎不全・初診日・容認
治療歴経過
1 会社の健康診断で、精密検査を受けるよう指示があり。
2 h病院受診する。しかし、カルテ廃棄のためか、受診状況等証明書はなし。
ここでアマリール錠(経口血糖降下剤)治療開始したことが、お薬手帳より立証されています。
審査会判断
お薬手帳により、処方開始された日を含む月のその日の前にはアマリール錠の処方がなかったことから、
この処方開始日をもって、初診日として認定されました。
等級
人工透析中であるため、等級は2級で認定されました。
感想
お薬手帳があってよかった・・・
みなさま、調剤薬局で処方をしてもらうときはお薬手帳持参を、
(そして持参忘れの場合はシールだけもらってあとで手帳に自分で貼っておくこと)
を忘れず、また、お薬手帳は、ちゃんと保管しておいてくださいませ。
というか、裁定請求の段階から、初診日認めるべきではないかと思う事案です。
支分権の消滅時効起算点はいつか・棄却
旧法厚生年金の障害年金遡及請求し、請求日前5年前の、時効により消滅した部分に関しての争い。
請求人は、裁定前は支分権の時効が進行することがないと主張。
これに対し、審査会は、裁定前であっても、
厚生年金保険法36条所定の支払期が到来したときから進行すると判断。
平成29年の判例も引用。
この問題に関して、私自身の考えは、いつか機会があれば書こうと思っています。
差引認定・棄却
年金請求歴
1.右大腿骨骨折による請求をし、障害手当金の決定。
2.右変形性膝関節症で事後重症請求。
不支給決定(障害の程度は障害手当金相当だが、既に支給済みのため)。
再審査請求で、審査会は、膝関節症は併合判定参考表の8号に該当するが症状は固定として棄却。
3.右変形性足関節症で事後重症請求。初診日で却下処分。
4.再度、右変形性足関節症で事後重症請求。障害手当金を支給する処分。
その後、保険者は、その処分を取り消して3級14号の処分に変更。
不服内容
上記4で、差引認定を適用すべき。
審査会判断
既存障害が股関節及び膝関節で、後発障害が足関節であり、
同一部位に複数の障害が併存していても、後発障害の状態が判断でき、かつ併合判定参考表に
明示されている場合にあたるから、差引認定を認定しない事案となる。
右足関節可動域制限は2分の1以下に制限、背屈やや減、底屈正常で
8号(1関節の用を廃したもの)に該当、3級14号より重いとは認められない。
ADL
右片足で立つこと、屋外歩行 △×
屋内歩行、△○
立ち上がる、階段を上がる・降りる △×
歩行時常時1本杖使用。
右下肢全体の障害の程度について足関節の障害がどの程度寄与しているか
必ずしも明らかでないため、差引認定適用すべき特段の合理的理由があるとは認められない。
感想
経過2の中で、原処分での不支給としたのが、既に支給済だから支給しない、って、なぜなんだろうか。
経過1は別傷病での障害手当金だから関係ないのでは・・・。
これに対し、審査会では症状固定として棄却しているけれども、初診日から5年経過後に固定したか、固定から5年たったからか(時効)、どちらなのか不明。
請求人は、差引認定を適用すべきと主張、としか裁決例に書いていないけれども、
右足全体で2級であり、差引認定適用しても2級と主張していたのでしょうか…?
右足全体で2級と主張するのであれば、差引認定適用せずに初めて2級となるのですが・・・?
また、審査会が平成28年差引認定の通知を持ち出しているので、
差引認定の認定基準改正前事案なのかしら?
右股関節や膝関節の可動域制限や筋力が不明、
などと疑問ばかりではあります。
仮に現行の認定基準を適用して、以下書いていきます。
右股関節手当金相当⇒8号か
右膝関節⇒8号
右足関節⇒8号
なので、右下肢の三大関節いずれも可動域が2分の1制限と思われます。
筋力は、右足関節がやや減であるため、半減までには達していないため、
右一下肢の機能に著しい障害を有しているもの、つまり2級には該当しないと思われます。
そうすると、併合判定参考表の(3級)6号。
現在の障害 6号 減退率67%
前発障害1(股関節) 18%
前発障害2(膝関節) 18%
後発障害(足関節) 18%
差引認定 67-18-18=31%⇒症状固定ならば3級14号
と、差引認定を適用しても、結果として原処分と同じになりました。
統合失調症・初診日・容認
前置き
結果は容認なのですが、裁決書には、
認められた「初診日の前々月までに国民年金被保険者期間がない」とあります。
そのため、初診日は20歳1ヶ月より前の時点であり、かつ、
初診日を含む月か、その前月に、厚生年金保険に加入ということでしょう。
言い換えると、初診日の前月以前か、前々月以前は厚生年金加入期間ではないのです。
ということなので、保険者としては初診日の判断は慎重になる事案ともいえます。
何が決め手か
裁決例は伏せ字が多くてわかりづらいのですが、容認に導いた材料として以下があげられています。
①病歴・就労状況等申立書「幻聴が聞こえ始めました。会社に行くのがしんどくなり、・・・平成○年○月頃、通勤中に見かけた病院の神経科を受診」(代理人弁護士作成)
②初診日病院の神経科の最終来院日がわかる管理コンピューター画面
③初診の病院以降の、受診した病院の初診カード「○年前に○○の神経科で診察を受けた」の記載
④上記③とは別の病院の診療録「平成○年から心療内科に通院」
として、請求人主張の、平成○年○月を初診日として認定しています。
感想
これは結構、限界の事案のように思います。
③④は年までは特定できても、月までは特定できないので、
厚生年金加入前の初診日の可能性も相当あるでしょう、と保険者に推認されても仕方がなく、
②についても最終受診日や通院したの立証にはなりますが、
初診日の立証にはならない、となると、
ほぼ①の病歴・就労状況等申立書で、月まで特定を認めたのかしら、と思っていて
(会社に行くのが嫌になりとか、通勤中見かけたとかの内容から、会社員時代に初診日を迎えたとしたのでしょう。つまり申立て内容は真実だとして、認定したといえます)
審査会としては、だいぶ請求者に寄り添った裁決をしたなあと思った次第です。
等級は2級となりました。
頸髄症・初診日・容認
概要
a病院 腰椎椎間板ヘルニア・右脛腓関節炎 ←ここを初診日と主張
b病院 頸髄症 ←これが年金請求傷病名
b病院の退院記録にある、
「右下肢が動かしづらくなり階段で膝折れしたことから、a病院を入院し、保存療法」
という経過のうち、
右下肢が動かしづらいのと膝折れが、頸髄症による症状とb病院は推測していたのだと
審査会は認定しました。
また、a病院入院診療計画書から、右下肢歩行障害が診療対象となっていた
と審査会は認定しています。
そのため、請求人は、右下肢歩行障害の治療目的でa病院を受診したと認定しました。
そして、a病院での傷病名は、b病院での傷病名は異なるけれど「同一の傷病と認めるのが合理的」
としました。
頸髄症の障害の特性や、a病院、b病院での治療内容・経過などを踏まえた裁決がされています。
この裁決をみると、病歴就労状況等申立書も大事なのがわかりますし、
受診状況等証明書だけでは立証が不十分の場合は、
積極的にカルテ開示して、立証する必要性を感じますね。
糖尿病性腎症・初診日・容認
概要
受診経過は、a病院→b病院→c病院
a、b病院カルテ廃棄。
a病院受診は信用性のある資料により受診の事実を確認することができないが、
b受診は、c病院に残されていたb病院作成の紹介・診療情報提供書に、平成○年○月頃から受診したことが書いてある。
その月の近辺には厚生年金加入資格喪失期間も短いことから、
喪失した期間に初診日があることを疑うべき資料もない。
そのため、紹介・診療情報提供書の、平成○年○月を初診日と認定。
この認定日は請求人の主張の範囲内であるとした。
感想
本件のように、初診の証明が(カルテ廃棄で)取得できなくても、
落ち着くところに落ち着くのだと思いました。
(再審査請求までいってしまいますが・・・)
たまにご相談いただきますが、
初診の証明がとれなかったらからと言って、そこの受診をなかったことにして
次に受診したところを初診として申請を進めようなんてはダメです。
混合性不安抑うつ障害・障害の程度・棄却
概要
ICD-10 F41.2、診断書備考欄に精神病の病態を示しているとの記載なし。
再審査請求において、医師作成書面
「F3気分(感情)障害も併存」「F34.1」
「長期にわたる抑うつ気分が目立つため気分変調症も併存にしていると判断される」
を提出。
しかし、審査会は、
診断書内容からすれば、「神経症圏である混合性不安抑うつ状態の
病名で全体像を理解できるのであり、それを変更する客観的資料の提出もないので
あえて気分変調症とする理由はない」
と、ばっさり。
感想
今回、再審査請求で提出した医師作成書面の内容が、
裁定請求段階での診断書備考欄に書いてあった場合は
保険者や審査会がどう判断したのかが気になるところであります。
右肘関節脱臼骨折、右肘関節外側側副靱帯断裂 症状固定(認定日の特例)・棄却
概要
橈骨頭に人工骨頭置換術。
肘関節は、上腕骨と橈骨と尺骨の3つの骨の骨頭が組み合わさっている。
肘の屈伸の主体は、上腕尺骨関節だから、認定基準の人工骨頭は、
上腕尺骨関節の骨頭に人工体を置換したもの。
なので、本件、橈骨頭に人工骨頭置換では
認定基準の、「人工骨頭をそう入置換したもの」にあたらず。
同日を認定日と認めることができない。
症状が治ったかどうかについても、病歴就労状況等申立書より、
リハビリしていることから、治ったと認めることができないとしました。
妄想性障害・初診日・容認
請求人の主張
a病院 受診状況等証明書
b病院 診断書
には、「平成○年○月頃」に精神科受診した記載がされているが、
これは、予診票(a病院受診?したときに本人が書いて病院に提出したものか)に
そのような記載があるため。
そして、予診票にそのような記載を本人がしたのは、その頃に発病したという意味で記載いており、
その頃に医師受診したのではない。
との請求人の主張。
審査会判断
請求人の主張をを審査会は認めました。
仮に平成○年○月頃に受診していればa、b病院にその旨説明しただろうに、a、b病院のカルテに
そのような記載がないから、と。
そして、a病院初診日を障害年金の初診日と認定しました。
等級は、保険者に判断を委ねました。
また、請求人は個人情報開示請求に要した費用を保険者に負担することを求めてますが、
これは「処分」(国年法101条、厚年法90,91条ほか)にあたらないとして却下となっています。
精神障害+その他の障害を保険者が総合認定
経緯は以下です。
1.精神障害(障害1)で障害厚生年金請求し、2級決定。
2.その後、脳脊髄液漏出治療(障害2)により障害厚生年金請求、3級決定。
3.保険者は、障害1と2は相当因果関係があるとして、1の処分を取り消し、
1と2を併合した2級に改訂する処分をする。
4.請求人は、2の等級に不服で審査請求したところ、保険者は2級に処分変更。
そのため、請求人は審査請求を取り下げる。
5.保険者は、(障害1と2をあわせて)2級の障害年金を支給する処分をした。
精神障害(障害1)と、その他の障害(障害2)は障害認定基準上、併合認定とあるのですが、
保険者は、「総合認定をするのが適切」として、総合認定し、「1級に相当する程度に至っていない」
との意見を出しました。
審査会判断
しかし、さすがに審査会は、そんなことを認めず、
保険者の意見は、「障害認定基準の定めを逸脱した根拠を欠くもの」として、
2級+2級で併合認定して1級としました。
感想
で。審査会は上記判断をしていますが、その前の審査官はどういった判断をしたのかが
疑問に思うところであります。
認定基準を逸脱している総合認定を是認したんでしょうかね・・・。
あと、保険者がこういった判断をしていると言うことは、将来的に、
認定基準の併合認定部分について改正
(「総合判断が適切な場合は総合判断とする」などといった)
があるかもしれないというのは気をつけておきたいところです。
聴覚障害・症状固定の有無と、症状固定日
原処分は不支給。
理由は、障害の程度は手当金相当だが、症状固定日が初診日から5年経過しているから
これに対し、請求人は、症状固定しておらず3級14号と主張。
審査会は、
平均聴力レベルの数値はいくつかの時点でさほど違いがないことから、
固定していると認定。
そして、初診日から5年以内に固定しているため、手当金を支給するとしました。
感想
この案件は、代理人社労士ではなく本人が再審査請求したのかもしれませんが、
代理人社労士としては、
主位的には、上記請求人主張のとおり、3級14号を主張しますが、
これが認められなかった場合に予備的に、
「仮に症状固定だとしても、初診日から5年以内に症状固定」というのを
主張しておく必要があるように思います(裁決を見る限り、請求人はその主張がしているように思えなかったため)。
でないと、今回、審査会は、症状固定日の判断をしましたが、
いつもしてくれるとは限らず、症状固定しているので3級14号には該当しません、
(さらに固定日がいつなのかまでは判断せず)棄却、というのも十分あり得るからです。