H3年裁決集(障害厚生年金・新法のみ、その1)

再審査請求裁決集

社団法人全国社会保険協会連合会発行の「社会保険審査会裁決集平成3年版」から障害年金(新法のみ)に関する裁決例の要約を書いていきます。

今回は全て「障害厚生年金、障害の程度」についての争いです

循環器疾患/容認

冠状動脈疾患・心房中隔欠損症です。診断書より、以下。

・臨床所見→浮腫・倦怠感あり。
・X線・心電図所見→陳旧性心筋梗塞および期外収縮があり。
・心臓疾患重症区分表→家庭内活動では何でもないがそれ以上の活動では心不全症状および狭心症症状がおこるものにあたる。

不支給の原処分に対し、認定基準3級例示に該当するとして、取消容認裁決となる。

田口コメント: 循環器疾患の障害認定基準改正前の裁決です。

神経症/容認

不安神経症で精神病の病態が認められた事案です。
S62年8月初診、同年10月就労不能、S62年12月から現在(H2)まで入院。
不支給の原処分に対し、審査会は、請求人の予期不安、外出不安を主とした状態が続いており、以前外泊したときに大量服薬の自傷行為をしたりしたことから、単なる神経症ではなく精神病の病態を示していると認められるとして、3級容認。

差引認定/容認

差引認定適用するか否かが問題となった事案です。

前回請求で、請求人は、S59年指切断で障害年金請求するが、手当金相当かつ労災の障害補償給付支給受給のため支給しない処分(厚生年金保険法56条3号)。審査請求、再審査請求するもいずれも棄却。
その後、再発し、完全切断。再度、年金請求するも、善発障害を差し引くと手当金相当であり労災の障害補償給付を受けているため不支給とする原処分。
これに対し審査会は、労災は運用上再発(に伴う認定替え)をしているし、前発の増悪として、厚生年金保険法47条の2(事後重症)の規定が適用が相当。3級容認。

田口コメント:前回請求で手当金相当で労災との調整で不支給にしたと言うことは、つまり、3級14号に当たらず、「症状固定」としたということかと思います。症状固定しているはずなので、本来は「事後重症請求」という概念と相容れないのですが、障害認定日当時は固定化と思ったらその後は悪化と言うこともあり、その場合は、2回目の請求では「額改定請求」ではなく「事後重症請求」となります。なお、前回請求が本裁決例とはことなり労災が関係なくて手当金が支給されている場合には、手当金は返還となります(疑義照会2011-285も参照)。

そううつ病/容認

就労による支給停止になった事案です。

S62年裁定請求し3級受給、H1年更新3級維持、H2年更新支給停止。停止に関し審査請求。
診断書の日常生活能力の程度は、S62年(2)、H1とH2で(1)。H2当時は、毎日8時間軽作業、通勤に1時間半。

審査会は、主治医に対し、処方薬と予後について照会。主治医の回答が「抑うつ状態、そう状態の相が著名であり、相を繰り返すごとに仕事に対する意欲も減じている状態である」とされたことから、審査会は、「請求人の病巣期が持続し又は頻繁に繰り返す状態から脱却したものとは認められず、現在の投薬内容からも、請求人が社会生活になお障害を有するものと判断。精神衛生職親制度(略)下の就労によって、通常の就労が可能と判断することは、請求人に対し、酷と言わざるを得ない。」と判断。
支給停止とした原処分取消し、3級維持。

田口コメント:投薬は9種類。

外傷性頸部症候群等/棄却

外傷性頸部症候群、腰椎椎間板症の事案です。
審査会の判断は以下。
診断書によると、認定日においては、脊柱の運動はすべて「一人でうまくできる」とあり、脊柱でも下肢、四肢でも3級に該当せず。
請求日においては、頸部と脊柱に可動域制限あり、軟性コルセット着用とあるが、バビンスキー反射陰性、足底反射異常なし、左膝関節ほぼ正常、ADLは、「一人で全くできない」、階段の昇降は支持・手すり必要、間歇性跛行とある。しかし、「審査官が請求人について行った実地調査書」によると、週2~3回、バス、船、タクシーを乗り継ぎ通院、相当時間薪割り等の家事、コルセット使っても使わなくてもあまり関係ないとあること、これらから疼痛が認められる程度で、疼痛は原則認定対象にならないから3級に該当しないとして、棄却した。

田口コメント:間歇性跛行(かんけつせいはこう)とは、「歩行などで下肢に負荷をかけると次第に下肢の疼痛・しびれ・冷えを感じ、一時休息することにより症状が軽減し再び運動が可能となること」(ウィキペディアより)らしいです。

指/棄却

審査会は、右手指の第2指、第4指は、中節骨の一部を残し欠損し指の用を廃した状態であり、第3指は近位指節間関節で離断欠損。ADLから「身体の機能が著しい制限」にもあたらない、なので、手当金相当と判断。
また保険者、時効により支給されない旨も述べており、審査会としては、仮に保険者が時効を援用しないとしても労災の障害補償給付を受給していることから手当金は支給されないと付言。

田口コメント:認定基準上は「指を欠くもの」とは親指以外は、近位指節間関節(PIP)以上を欠くものをいいます。
手指は爪の方から、基節骨→DIP関節→中節骨→PIP関節→末節骨となります。

以上、いったんここまで。