令和6年度 社会保険審査会 裁決取消例

再審査請求 裁決集

行政文書情報販売店様より購入させていただいた、社会保険審査会裁決取消集令和6年度版より、障害年金の事案のみ、以下、ご紹介させていただきます。社労士向けの記事となります。

更新停止(2級→3級不該当)・呼吸器疾患

呼吸器疾患で障害厚生年金2級を受給していた受給権者が、更新診断書を提出したところ、2級から、一気に3級不該当として支給停止になったことで、2級継続を求める事案。

一般状態区分イ、活動能力ア、右肺の繊維化、不透明肺、蜂巣肺は「高」、気腫化、胸郭変形は「軽」、栄養状態「中」、ラ音「一部」、酸素投与なし、換気機能はA表B表いずれも軽度以上にも該当せず。

審査会は、肺移植後の免疫抑制剤の影響と考えられる肺真菌症を併発したため肺部分切除術を施行、その後も真菌剤による治療継続、免疫グロブリン定期補充、さらに診断書現症日の数ヶ月後、肺移植の治療に至った慢性呼吸不全が悪化し、その増悪により死亡したことを考慮し、現症日に改善していたとみられる状態は一時的なものであり、前後の経過を全体としてみるならば、慢性的な呼吸不全状態および移植後の免疫不全状態が継続していたと認めることができる、として、2級継続を認めました。

この事案より、症状の変動が大きい場合には、現症日だけでなく、その前後の状態も立証して、年金請求や更新手続きをする必要があるなと考えました。

初診日・双極性障害

審査会は、

・受診状況等証明書は、初診日等の記載はない
・第三者証明2通は、いずれも伝聞による記述である

よって、初診日を●年●月と認めることができないが、一方、審査会の照会によれば、診療システム画面に、心療内科受診歴があり、最終初診日は●年●月●日と記録されていることから、請求人は心療内科に少なくとも●年●月●日に受診していることが認められていることに加え、発病年月日と初めて医師の医師の診療を受けた日とおおむね符合することから、初診日は●年●月●と認めることが相当である、としました。

と、ここまで書いていて、このブログを読んでいる方は、伏せ字だらけで何が何やら、と思いますが、社会保険労務士作成の審査請求書によると、心療内科での受診した記録が画面上確認できるが文書交付を断られた等記載があり、それを受けて、審査会が、当該心療内科に照会をかけたところ、受診の回答が得られ、それを元に、初診日を認めたのだと考えています。

「最終初診日」というのが、謎のワードであります・・・。

また、審査会は、第三者証明は伝聞による記述なので、これで初診日と認めることはできないとしていますが、初診日取り扱い通知には、受診状況を直接見ただけでなく、請求人や請求人の家族から初診日の頃か請求の5年以上前に、受診状況を聞いていたことを第三者証明としてあげているため、伝聞だから認めないというのは理由にならないのです。
今後も、同様に、初診日取り扱いと異なる判断をしてくるケースが考えられるため、再審査請求においては、初診日取り扱い通知の該当箇所を添付した方がよいと考えられます。

また、本事案のように、カルテ廃棄であっても、書ける範囲だけでいいので受診状況等証明書に書いてほしいと医療機関にお願いしても断るところは断ってくるので、その医療機関とのやりとりを詳細に書いたのを再審査請求に記載すると、本件のように審査会が医療機関に照会をかけてくれることもあるので、やりとりを再審査請求に詳細に書きましょう。ただ、審査会の照会も毎回確実に、とはいえないのですが・・・。

初診日・多発性のう胞ほか数件


多発性のう胞の事案。裁決が伏せ字ばかりなので、判然としませんが、請求人主張の初診日は医証がないため認められず、2カ所目のところ(ここは医証あり)で初診日と認めた事案かなと。

ほか、慢性腎不全も同様。

統合失調症の事案では、5年以上前の申告内容がカルテに記載ありで(かつ、審査会が医療機関に照会をしている)、容認。

別の慢性腎不全の事案では、診療情報提供書と領収書で認められました。

慢性腎臓病の事案では、肥満症での入院が糖尿病の初診として認めた事案。

ほか数件ありますが、黒塗りばかりでなにがなにやら、なので割愛します。

等級の争い・肢体障害

右手圧挫創、熱傷により、原処分3級決定。これに対し、2級を求める不服の事案。

審査会は、右手について、3指を欠き、ほかの指も可動域が2分の1以下に制限されているため、全指が用を廃したものに相当し、しかもADLで、右手のみの動作はすべて×、握力計測不能であるから、一上肢のすべての指の用を全く廃したもの(=上肢の指の機能に著しい障害を有するもの=指があってもそれがないのとほとんど同程度の機能障害があるもの)として、国年令別表2級10号を認めました。

なお、保険者は、「一上肢の親指および人差し指を基部から欠き、有効長が0のもの」(併合判定参考表6号)かつ「親指および人差し指以外の一上肢の2指を廃したもの」(11号)として、併合の結果、3級としました。
の着脱が○、タオルを絞るとひもを結ぶが△×、これらから、2級10号としなかったと思われます。

年友企画出版の「障害年金と診断書」によれば、ADL記載については、「両手で行う動作も片手で行う場合には、△×の動作」とあります。

しかし、本事案のような保険者の認定をすることを考えた場合、ほとんど健側の一上肢で行っている場合には、△×だとしたら、患側が機能していると誤解されるため(握力・筋力、可動域から、使えるわけがないでしょうとは考えてはくれず、)、診断書余白に、片手で行っている旨(患側では用をなさない旨)の記載が必要ではないかと考えました。

障害の程度・膵神経内分泌腫瘍

不支給の原処分から、審査会が3級を認めた事案です。
一般状態区分がイ、倦怠感、体力低下、易疲労感、ダンピング症状、PSは2、検査成績異常値なし。もっとも、治療目的は根治ではなく延命であり、低体重、多発肝転移確認、認定日から○ヶ月後に退職していることから、3級該当としました。

障害の程度・乳がん

不支給の原処分から、審査会が2級を認めた事案です。

術後、リンパに再発、縦隔リンパ節にも転移、緩和的内分泌療法開始、一般状態区分がエで、労作時に呼吸苦と胸部圧迫があるため軽作業も不可とあることから、審査会は2級としました。

なお、保険者は、血液検査異常値を示すものがなく、衰弱の状態とは言いがたいことから2級とはしませんでした。

障害の程度・クローン病

認定日、請求日3級に対して、いずれも2級を目指した再審査請求で、審査会は、認定日は3級として棄却し、請求日は2級容認しました。
容認の理由は、一般状態区分がエで、小腸に炎症が生じる可能性があり当面エレンタール併用となること、通院も家族の送迎を要し、自宅で臥床していることが多く労働不可であることをあげています。

なお、保険者は、おかゆやうどんを食べられたことや、おむつ交換が自分でできたことが、2級にならない理由としていますが・・・いやいや、2級不該当の理由に全然なっていないでしょう。

更新で降級(2→3級)・副腎白質ジストロフィー

審査会は、進行性の傷病なのに、障害状態が改善している診断書は、医学的に矛盾しており、障害の状態の評価の正確性に欠ける疑問を払拭することはできないし、また、医療機関がカルテ提出はできないとの回答であるから、診断書でもって再認定することは不適切といわざるを得ないとして、降級とした原処分を取り消しました。

なお、更新における降級は、条文の文言から(国民年金法34条1項)、保険者に立証責任があると考えられ、審査会も同様に考えて、降級処分の立証が保険者にできていないから、容認としたのだと思われます。

障害の程度・排便排尿障害

審査会は、常時自己導尿と、(人工肛門は閉鎖して)自己肛門であり、完全排尿障害かつ人工肛門増設と同等として2級を認めました。

なお、再審査請求書や保険者意見が、別の事件のものが添付されているようなので、割愛します。

更新で降級(2級→3級不該当)・間質性肺炎

審査会は、動脈血ガス分析や予測肺活量1秒率は異常値を示しておらず、活動能力はⅱウ、一般状態区分ウだが、

「肺移植後のため、生涯にわたり免疫抑制剤・抗感染症薬による加療が必要であり、免疫抑制中であるこ
とから、感染症を避けるため、外出制限を余儀なくされており、移植後も頻脈性不整脈、高血圧、心不全があり、循環器内科に定期受診して内服調整を行っているとされ、現症時の日常生活活動能力及び労働能力は、免疫抑制中により感染症リスクを伴うため外出制限や食生活に制限がある状態であり、肺移植後であるが、現病の間質性肺炎によ
り胸郭が小さく動きが悪い状態で、食後や労作時には息切れを生じるため、適宜安静が必要となるとされ、予後については、不明であるが、急性拒絶反応や感染症をきたす恐れがある」
「労作時や歩行時の息切れ、動悸があり、肺移植後に頻脈性不整脈があって、その加療中であるために、現況診断書の現症時における一般状態区分を「ウ」(歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居
しているもの)と評価したものであること、請求人の頻脈性不整脈、高血圧、心不全、貧血は、間質性肺炎及び両側脳死肺移植後(本件傷病)を主な原因とするものであると診断していることが認められる」

として、2級ではないものの、3級を認めました。
動脈血ガス分析や予測肺活量1秒率は異常値でないものの3級となる例として参考にしたいです。

障害の程度不明却下・頸髄損傷

事後は2級、認定日が障害の状態不明として却下との原処分の事案です。
保険者は、カルテには、認定日の診断書の根拠となった動作程度等の記載がないことから診断書を審査資料として採用できないとの判断で却下したと思われます。
裁決によれば、再審査請求において、認定日を挟んだ2時点の、身体障害者手帳診断書コピーが提出され、その手帳の内容は同じであることから、認定日時点の状態も、2時点の手帳診断書作成の状態と変動がなく、認定することは可能であり、手帳診断書と同等とするのが相当であるとしました。

手帳診断書は、すべて自立が多いの項目が多いのですが、両上肢は機能障害を残すものにあたらず、両下肢に機能障害を残すものとして、身体機能総合的に見て3級「身体の機能に労働の制限を受けるか・・・」にあたるとしました。

なお、認定基準上は、下肢障害での3級の例示として「両下肢に機能障害を残すもの」として、例えば3大間接中それぞれ1関節の筋力半減とあります。
本件は、股関節と膝関節が筋力半減、足関節が消失又は著減なので、これは満たすどころか、3大関節のすべてが半減以下なので、それでも2級としないのか、と思いました。

下肢障害の2級の例示で、両下肢の3大関節の1関節の可動域が2分の1以下に制限、かつ、筋力半減とあります。両下肢の2級例示が一つしかなく、これに当てはまらない場合の、本件のような、3大関節すべて半減以下の場合はどうなのかが不明、そのため、3級になってしまうのはおかしいと思います。

降級(3級→停止)・全身型重症筋無力症

保険者は、肢体の機能の障害で障害等級3級に相当するものの例示(一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの)に該当せず、手当金相当で症状固定していると判断。

これに対し、審査会は、「難病に該当するものであり、本件傷病による障害は、全身の筋力低下や易疲労性に加え、
眼瞼下垂、複視などの眼の障害、構音障害、嚥下障害も認められる疾病であるところ、現況診断書によれば、最近一年間の治療内容等について、ステロイド、免疫抑制剤の内服を継続しているが、四肢筋力低下に加え、疲労による眼症状、球症状の悪化を繰り返しており、安静によりやや改善がみられるものの日常生活動作により悪化するとされ、
また、軽作業(デスクワーク等)でも疲労に応じた休息を要するとされていることを考慮すれば、全身の筋力低下による肢体の障害のみでその障害の状態を判断することは失当であり、その他の疾患による障害で障害等級3級に相当する「労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当すると認めるのが相当」とし、手当金相当ではなく3級相当としました。

肢体の診断書提出しているのだけれども全身の状態を考慮し判断している裁決例です。

障害の程度・新型コロナ後遺症

3級決定に対し、2級を求める不服。

保険者は、「換気機能は未実施とされ、動脈血炭酸ガス分圧が軽度異常を示している他は、認定要領に定める異常値を示しておらず、今後リハビリで活動範囲が広がり、労働能力は軽作業に限られると推測され」るなどを理由として、3級としました。
これに対し、審査会は、「継続する肺線維化のため肺移植が前提とされる状態であり、リハビリ目的で入院加療が継続されているが、安静時より脈は高めで肺性心所見が認められ、座位などの軽微な体動によりSPO2の低下がみ
られ、また、リハビリやトイレ移動等の体動時には、呼吸困難が著明となり、SpO2も %(Dr.J.W.Sevringhaus の式によるPaO2に換算すると 程度)に低下」「酸素の継続的な投与を要する状態であり、また、肺移植が予定され、車椅子などでトイレに行く際も酸素の低下が起こり、動作を中断したり、酸素量を増加させなければならない」ことから2級としました。

初診日・糖尿病

第三者証明2通により初診日が認められた事案です。1つは、元主治医であり、相当期間、治療担当していたことから、記憶していたとしても不自然でないし、初回来院時にほかの傷病により受診したことをうかがわせる事情が全く存在しないことをもって、第三者証明が信用性高いものとして、認められました。

障害の程度・多系統萎縮症

3級の原処分に対して2級を求める不服です。

保険者は、上肢は、筋力がすべてやや減、ADLが、4項目○△、6項目が○、下肢は、筋力すべてやや減、ADLは片足たちが×、歩く○△、立ち上がるはやや不自由、階段の上り下りが非常に不自由、であることから四肢に機能障害を残すものにあたらず、両下肢に機能障害を残すものとして、3級としました。

そして、麻痺の外観が失調性で、閉眼での起立・立位が不安定、開眼での10m歩行が中断せざるを得ないとありながらも、下肢について、歩くが○△、立ち上がりがやや不自由、階段上り下りが非常に不自由だから、平衡機能の内容をそのまま評価することができないとして、平衡機能の2級に当たらないとしました。

これに対し、審査会は、日常生活労働能力欄で、ワイドベース歩行でバランス不良、直線歩行困難、転倒、転落リスクありとされていることから、平衡機能の障害として2級にあたるとしました。

障害の状態不明却下・右足切断

審査会は、切断後、さらに切断部位が拡大することとなった客観的資料は見当たらず、身体障害者手帳を受けたことも考慮すれば、裁定請求当時の診断書に記載された欠損は、20歳当時と同様であったと認めるのが相当として、20歳到達日が受給権発生日として、障害福祉年金が支給されるべきとしました。

保険料納付

めちゃめちゃ大事な裁決なので、長文引用します!黄色マーキングしたのは、私です。

「本件記録によれば、請求人の国民年金被保険者資格取得年月日は、請求人の20歳到達日である平成 年 月 日であるが、同月 日には 保険年金課国民年金係で同資格取得届を受付後、同年 月 日に旧社会保険庁 社会保険事務所で受付されており、同社会保険事務所において、同月 日に入力処理が行われ、同月 日には国民年金保険料の納付書が発行されていることが認められる。
また、当審査会から保険者に対し、同納付書が同月 日の発行から請求人へ送付されるまでの経過等の照会に対し、保険者は、納付書を「同月 日に郵便局へ持ち込み、同年 月 日頃に送付され同月 日までには請求人へ送付されたものと推測されます」と回答していることが認められる。
そうすると、請求人は納付書到着後に、速やかに本件納付をしていることが認められるのであり、その納付日が本件初診日後となったことについて、請求人の側に全く帰責性はないと認めるのが相当であるところ、本件は、国民年金被保険者が20歳に達した後に保険料納付書が送付されるというシステムの都合により、本来は納付要件を充足していたであろうはずの被保険者が救済されないこととなってしまうのであるが、このような結果は、請求人にとってあまりに酷であり、健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする国民年金法の制度趣旨にも反するというべきであるので、このような納付に至る経過も合わせ考慮すると、本件納付は、実質的には納付要件を満たしていると評価するのが相当である。
以上によれば、保険料納付要件を満たしていないとした原処分は妥当ではなく、これを取り消さなければならない。」

20歳直後に初診日があるケースで、かつ、保険料納付がわずかに遅れている場合、社労士としては、本裁決のような事情はないか、十分確認して、「納付要件満たしません」として安易に受任を断らないよう、十分注意する必要があると思いました。

障害の程度・髄膜腫

保険者は、「一般状態区分表は「エ」とされているものの、障害認定日においては、再発所見は見当たらず、検査成績も認定基準に定める異常値を示していないところ、症状について、自覚症状としては、疲弊感、倦怠感、体力低
下、食欲低下とされているのみであり、術後は定期MRI評価で か月に 度の外来通院とされている状況から総合的に判断する」と2級にならないとしました。

これに対し、審査会は、「日常生活に著しい制限があり、家族の全面的な介護がなければ日常生活は困難な状態にあり、日中の大半を臥床して過ごし、就労、労務は不可能である」等により、2級としました。

障害の程度・右手の障害

審査会は、
「中手指節関節(MP)においては、環指以外は健側左手指の他動可動域の2分の1以下に制限されず、近位指節間関節(PIP)(母指では指節間関節)においては、近位指節間関節から末梢が欠損した母指、示指、中指、環指の他動可動域は記載されておらず、小指の他動可動域は、健側の他動可動域の2分の1以下に制限されておらず、握力(右)は小指のみでえられており3kgとされているものの、日常生活における動作の障害の程度は、手指の機能に関連する動作について、右手のみを用いての動作(つまむ、握る)は全て「一人で全くできない」と評価」されていることから、指があってもそれがないのと同等の機能障害、「一上肢のすべての指の機能に著しい障害を有するもの」に該当するとしました。

最後に一言

以上、取消(容認)裁決例でした。精神の障害の程度が、一件もなかったのでした・・。