令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書を読んで

障害年金 応用編

報道記事引用

令和7年3月以降、共同通信の記者による、障害年金不支給倍増の報道がなされました。
以下は、報道の一部引用です。

令和7年3月13日報道

病気やけがで一定の障害がある人が受け取れる国の障害年金を巡り、支給を申請しても「障害が軽い」として不支給と判定されるケースが2024年以降、増えたとみられることが13日、共同通信のサンプル調査で分かった。複数の社会保険労務士の協力を得て、23年と24年で計2千件超の申請を集計した結果、精神・発達障害では24年の不支給割合が23年比で2倍に増えていた。

 全ての障害種別でも1.6倍に増加。社労士からは「明らかに判定が厳しくなった。以前なら受け取れたはずの人に支給されなくなり、生活に影響が出ている」との声が上がっている。「判定が恣意的だ」との批判が以前からあるが、不支給が増えた理由は明らかにされていない。

 障害年金の受給者は約236万人(23年3月末現在)。判定機関である日本年金機構は取材に対し「審査方法などは変更しておらず、基準に基づき適正に判定している」と回答した。判定結果などの統計は毎年9月に公表しているとして、不支給割合が増えているかどうかは答えなかった。

令和7年4月29日報道

障害者に支給される国の障害年金を巡り、審査の実務を担う日本年金機構の職員側が、支給の可否などの判定を委託している医師の一部に対し、支給を絞る方向で判断を誘導している可能性があることが内部文書や職員の証言で29日、分かった。

 機構は首都圏の判定医140人それぞれについて、傾向と対策のような文書を内部で作成。「こちら(職員側)であらかじめ(判定を)決めておく」などと書いている。医師によって判断にばらつきがあると認識していることも判明。職員の裁量や、どの判定医に書類が回るかによって支給の可否や金額が左右されることになる。

 内部文書について年金機構は取材に対し「判定医に関する情報や取り扱いについては、回答を差し控える」としている。

 障害年金を巡っては、不支給と判定される人が2024年度に急増したことが、機構の内部資料で判明。担当部署である障害年金センターの職員は「センター長が厳しい考え方の人間に交代し、その意向が働いている」と証言している。

令和7年5月7日報道

国の障害年金を申請し不支給と判定された人が2024年度に急増したとの共同通信の報道を巡り、福岡資麿厚生労働相は7日の衆院厚労委員会で、早期の実態把握に向けて日本年金機構などに抽出調査を指示したと明らかにした。

厚労省による調査およびその報告

これら報道を受け、障害年金審査業務を行う日本年金機構の監督機関である厚生労働省は、障害年金の認定状況の調査をし、報告書を公表しました。その概要が以下の2枚の画像です。下記厚労省URLにある、「調査報告書概要」と同じものです。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00198.html

最大のポイントは、集計の結果、精神障害の不支給率が、令和5年度の6.4%から、令和6年度は12.1%と、およそ倍増したことです。

私見

以下、私見を書いていこうと思います。

前提

まず、前提として、私は、令和6年3月から令和7年3月の間、つまり、この調査対象期間の全て、司法修習のため休業していました。休業前に、カルテ開示の求めが1件あり、カルテ開示を求められるような疑義のある事案だと感じなかったため、疑問に思いながらも1件だったので、その後の1年間で、不支給倍増になるような状況になるとは当時は思いもよりませんでした。
以下は、自分の実務上の肌感覚ではなく、カルテ開示の求めが多いといった同業者から得た情報に影響・依拠している部分が多いかもしれませんので、その点、ご了承ください。

6月11日に報告書が公表され、もっと早く書きたかったのですが、受任事案で立て込んでおりまして、やっと時間がとれたため、遅まきながら、書いていきます。

以下のページ数は、調査報告書↓のページ数となります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00198.html

センター長の意向

報告書6ページにおいて、

理事長・センター長等の指示として、職員のヒヤリングによると、

「認定の根拠を明確にすべきといった意図の指摘はあった」

「認定医にきちんと説明できるよう精査すべきと言われた」

とあります。

まず、上の、「認定の根拠を明確にすべきといった意図の指摘」について。
「意図」なんて文言は非常に曖昧です。「意図」ではなく、センター長が「話した言葉そのもの」をヒアリングで話して欲しいと思いました。話せない事情が何かがあるのでしょうか。


また、この2つのヒアリング内容から、センター長は、実際認定すべきである認定医に対してではなく、職員に対し、「認定の根拠を明確にすべき」「精査すべき」と指示していたことがポイントとなります。

さらには、7ページに、認定医に関する連絡事項について、以下の記載があります。

基本的にこちらの意向に沿って認定して頂けますので、認定の方向性や程度、不支給理由に関しても事前にこちらで予め決めておくのが望ましい。

冒頭の「こちら意向に沿って認定していただけますので」とは、文脈から、「こちら」=職員、「認定していただけます」の主語は認定医を指すことがわかります。
つまり、「この認定医は、職員の意向に沿って認定していただけます」ということを連絡事項として残していたことがわかります。

これらのことから、センター長は、”認定医ではなく、職員が「認定の根拠を明確に」認定をして、その内容を認定医が納得するよう「きちんと説明」して認定医に追随してもらうこと”を意図し、また、そのために、認定医が職員の意向に沿って認定する医師かどうかの情報共有が職員内でなされていた、とみるのが相当ではないでしょうか。

職員による等級案

職員のヒアリング(報告書別添2)によると、等級案をつけた理由について、4つの事例があげられています。以下、4つの事例の概略ですが、

  • 一般企業一般雇用
  • 一人暮らし、福祉サービスなし
  • 福祉サービスなく単身生活、アルバイト
  • 独居

上3つが、職員が事前判断で、3級としたもので、一番下が、職員が2級としたが認定医が3級判断したものです。
単身生活や、一般企業一般雇用だと、2級ではなく3級となりやすいことがわかります。

職員による等級案の廃止

11ページにおいて、

等級案も含め、認定医が審査する際の参考情報という位置づけではあるが、認定医のヒアリングでは、事前確認票は助かっているが、等級案を見て決めているわけではないといった旨の話があった。

これらのことを踏まえると、職員が等級案を記載する必要性は高くない

目安より下位等級、又は、目安が二つの等級にまたがるものについて下位等級、これらにより不支給になった請求件数の

約9割は、職員の事前の等級案のとおりとなっていた。

14ページにおいて

精神障害については、職員が事前確認票に等級案を記載することを廃止する

職員の等級案は、認定医が認定する際の参考になるし、実際のところ、認定医は、不支給等の9割の事案について職員と同じ等級にしていたにもかかわらず、廃止することになりました。
認定医が、職員の等級案に誘導された認定をすることを防ぐためともいえるし、実際これまで誘導されていた可能性もあり得るのではないでしょうか。認定医のヒアリングでは、職員の等級案を見て決めているわけではないとあり、これまでの誘導については否定するかもしれませんが、だとすればなぜ参考になるものを廃止するかが不明なのです。

今後の施策

報告書13ページ目以降に、今後の施策をいくつかあげられています。

(1) 事前確認票等の運用改善

(2)  担当認定医の無作為での決定

(3) 理由付記の改善

(4) 認定事例の作成・考慮要素の徹底

(5) 認定に関する文書の廃止

(6) 複数の認定医による審査の拡大

(7) 障害認定審査委員会の活用

(8) 障害年金に関する情報の公表

不支給等事案について

精神障害等(障害認定基準上の「その他の疾患による障害」の基準に基づいて認定する障害を含む。以下同じ。)の令和6年度以降の不支給事案について、すでに審査請求で裁決等が行われた事案を除き、改めて、速やかに、障害年金センターに配置される常勤医師を中心としたチームによる点検を行う。

精神障害について、令和6年度以降の、目安より下位の等級に認定され、支給されている事案や、目安が2つの等級にまたがるものにつちえ、下位等級に認定され、支給されている事案についても、速やかに同様の点検を行う。

とのことです。

職員モニタリングで

認定にからも、症状の軽い人の請求が増えているとの声を聞いている(中略)SNS等で拡散され

SNSなどの交流サイトで障害年金がもらえるといった情報が流れていることの影響はあると思っている。

厚労省としては、「不支給率が増えたのが、SNS等の拡散で、軽い人の請求が増えたからで、審査には問題ないけれども、たしかに、理由付記に関しては少し足りなかったかもね」として矛を収めたのでしょう。

私が期待したこと

令和5年度から令和6年度で不支給倍増になるほどのSNSの拡散って、一体どんな状況?て思います。

私が、今回の調査で期待したのは、

・令和5年度と令和6年度のカルテ開示の求め件数

・センター長が、職員に対し、「認定の根拠を明確にすべき」という抽象的な内容ではなく、さらに踏み込んで、カルテ開示について言及したのかどうか

・等級の目安より下位にした、または、目安の等級が2つまたがる場合に下位等級の方にした案件のうち、カルテ開示の割合

などであり、これらを判明しない限り、不支給増加について分析や今後の施策の検討ができないのではないかと思ったのです。
前述の「私見」の冒頭でも書いたように、私は休業中だったため1件のカルテ開示しか合わなかったのですが、それがカルテ開示されるような事案でなかったので(さらには日本年金機構はカルテ開示を求める理由も言及せず)疑問に思い、さらに同業者からの情報でカルテの求めが多いとのことで、このカルテ開示に何ら触れない報告書については、そもそもヒアリングが足りてないのではないかという印象を持ちました。

今後、R6年不支給や軽度等級に関して再認定を行うとのことですが、カルテに書かれた文言にひっかけて不支給等にしているのであれば、認定のやり直しをしたところで、結果は覆らないことがほとんどではないでしょうか?

私自身は、診断書で不明点や疑問点がある場合に、カルテ開示自体が問題だという考えではありません。カルテ開示費用や審査期間の遅延と言った、請求人に不利益を及ぼすこととなりますが、適正な審査のためには必要なこともあるかと思います。
もっとも、例えばカルテに、外出したことが書かれていた場合、その一言を持って、診断書記載の日常生活能力の判定を信用ならないものとして判断して不支給にすることが問題だと考えています。多忙な中、時間を割いて診断書を作成した医師に対しても失礼でしょう。

仮に、カルテに書かれていたものが不支給方向にする内容であれば、診断書作成医に対して、「カルテではこのような記載がありますが、診断書の日常生活能力の判定はこのようにした理由についてご教示いただけますでしょうか」といった、医師照会をかけるべきだと思います。

実地調査は人が足らないからと行わず、上記のような医師照会もせず、カルテの一言だけで不支給にする、そしてカルテ開示をどんどんする(あたかも不支給にするためにカルテから文言を探す目的かのように)、このようなことが行われていないかについて何ら検討が行われていない今回、報道で、いったん不支給率は下がるかもしれませんが、今後も、組織内の何らかの作用により、不支給が倍増する危険性が秘めていると言わざるを得ません。